「今までのも、これも兄さんの形見なんだ。」

「お兄さん…の………。」

 形見………。

「前のは兄さんへの償いのつもりで付けていた。
 今日のこれは……つけることが出来なかった。」

 辺りを静けさが支配して、私は何も言えなかった。
 お兄さんがいたことも、ましてお亡くなりになっていることも知らなかった。

 償いという言葉を使った加賀さんはお兄さんのことで何か後悔していることがあるんだろう。

 自分も最愛の父を亡くしてその気持ちが痛いほど分かった。

「また、兄さんの話を聞いて欲しい。」

「……はい。」

「ちょっと重い話になるけど、南には聞いて欲しい。」

「はい。」

「愛してる。」

「はい。…………はい?」

 今、なんて………。

 囁かれた言葉は本当に聞こえたのか、不確かであやふやで。

 体を離した加賀さんがいつもの調子で「ほら。仕事に戻るぞ」と振り返った。

 至って普通に。

 空耳………かな。
 赤くなる耳を押さえながら加賀さんの後に続いた。