「そんなに変か?」

 みんなが営業に出払って私と2人になった加賀さんは小声で私だけに聞いた。

 小声の必要はないのに、きっと気にしているのが恥ずかしいんだというのが分かってなんだか可愛かった。

 見えたのはブランドに疎い私でも知っている有名時計ブランドの物。

 メタル色のベルトに黒の文字盤が落ち着いた大人の男性らしさを際立たせている。

 似合っている。
 とても似合っている。

 けど………。

「とてもお似合いです。」

 にっこり微笑むと「ちょっと」と手招きされた。

 ついていくと会議室のドアを開けた加賀さんが振り返った。
 少し乱暴に腕を引っ張って私を引き入れてドアを閉める。

 怒っているみたいに。

「加賀さん?」

 壁と加賀さんに挟まれ逃げ場を奪われて弾糾されるように問いただされた。

「本当のこと言って。
 明後日な方向を見る南の褒め言葉なんていらない。」

 加賀さんこそよく人のことを見てる。
 明後日な方向を見て言ったつもりはないけど、心あらずではあったかもしれない。

 観念して口を開いた。

「似合ってます。それは本当です。
 ただ………。」

「ただ?」

「似合い過ぎてて、なんていうか、遠い存在に思えて………。」

 この台詞がいたくお気に召したようで口元に手を当てた加賀さんは、にやけそうな口元を隠しているみたいだった。

 隠せてなくてバレバレですけどね!

「ここにいるだろ?これでも遠いか?」

 腰を曲げ、体を屈めて額を私の肩につけた加賀さんは確かに近い。

 そういうことじゃないんだけどなぁ。

 近い距離は何も混ざっていない加賀さんの香りがして鼓動が速くなる。

 いつもこのにおいならいいのに。

 前に一度気づいてしまった加賀さんから香る女性のにおいを思い出して胸が痛くなった。