朝から騒がしかった。

 騒がしいのは加賀さんと武蔵さんのいつもの戯れ合いみたいだ。

「どうしたんですか?」

「あぁ。南ちゃん。聞いてよ。」

「とうとう加賀さんもブランドデビューなんだって。」

 隼人さんが囃し立てるように言った。

「え?それってどういう風の吹き回し?」

 ノーブランドの男で通っていたんじゃ……。

 加賀さんくらいの人ならブランド物の1つや2つ、とは思っていたけれど、なんだか急にそんな……。

「南までそんな言い草か。」

 加賀さんが不満そうに言う。

「ほら。お前にはもったいないってよ。」

「そんなこと言ってないだろ?」

 武蔵さんから遠ざけるように上げる加賀さんの腕にはいつもの時計とは違うものがついていた。

「加賀さんには似合い過ぎてて嫌味ですよ!
 僕にください!」

「なんで隼人にやらなきゃいけないんだ。」

「どうしたの?」

 後から来た美智さんまで男性陣の盛り上がりを呆気に取られたように眺めた。

「加賀さんがブランドデビュー……。」

「だから昔つけてたのをもう一度つけ始めただけだ。」

「んだよ。色気付いちゃってよ。」

「うるさい。」

 色気付いてって……そんな理由?

 美智さんが、にやけ顔で私を肘で押した。
 いや。そういうんじゃ……。と、否定していいのかもよく分からない。

「俺にいつかくれると思ってたのによ。」

 そう文句を言う武蔵さんが何故だか嬉しそうだった。