「あのさ。
　返事を急かすつもりはないんだけど。
　僕とのこと少しは考えてくれた？」

　隼人さんが自販機の前でこちらを見て言った。
　お金を入れられて押して欲しそうに光る自販機のボタンがまだかまだかと待っている。

「私はそこまで器用じゃないんです。
　だから………。
　加賀さんを好きなのに他の人は考えられないです。」

　隼人さんの気持ちは嬉しかった。
　加賀さんを好きでいてもいいからとまで言ってくれて心が揺らいだのも事実で。

　乾いた笑いを吐いた隼人さんが「加賀さんには敵わないか………」と力なく言って自販機のボタンを押した。
　ガコンガコンと自販機が吐き出した缶のうちの１つを私にくれた。

「あ、ありがとうございます。」

「うん。じゃ僕、先に戻ってる。」

　隼人さんを見送ってそれから自販機の前の休憩スペースに腰を下ろした。

　手の中にはブラックコーヒー。
　甘い砂糖もまろやかなミルクも入っていない。

　世間一般に私のイメージそのもの。

　飲みそうなイメージもあるんだと思う。
　実際、ブラックも好きだ。

　けれど………。

　ミルクはたっぷり。砂糖も入れて。
　コーヒーが苦手な可愛らしい子が飲むイメージのカフェオレ。

　それを初日に渡した加賀さんに理由を聞いてみたい。

　女はカフェオレとかカフェラテが好きだろ？
　なんて言葉が返ってくるんだろうな。

　苦笑してブラックを開けようとしたところで声をかけられた。