嫌なことはまとめてやってくる。
 やっぱりそれはセオリーなの?

 何にも代えがたいモノを失くしてしまったことに気づいて、帰り道を何度も引き返していた。

「おい。南。
 ずいぶん前に帰ったろ。」

 聞き覚えのある声に顔を上げる。
 こんな時に会って、しかもこんな時は目が合うなんて………。

 加賀さんの顔を見て気が緩んでしまった。
 目から涙があふれた。

「おい。どうした。大丈夫か。」

 歩み寄った加賀さんが腕を伸ばして引き寄せた。
 その温もりが余計に涙を助長して止まらなくなった。



 南の泣いたところを初めて見た。
 こいつが泣くなんて………。

 体が自然に動いて抱き寄せていた。
 南はまだ俺の胸で泣いている。

 しばらくして落ち着いてきた南の頬を拭って、髪を後ろへ流してやりながら優しく聞いた。

「どうした。なんかあったのか。」

「ごめ……ごめんなさい。
 ご迷惑を………。」

「そんなこと気にする奴があるか。
 どうしたんだ。言ってみろ。
 ……言えないことか?」

 頭を左右に振る南が「指輪を……失くしてしまって」と消え入る声で言った。

 僅かに胸の痛みを感じながらも南をもう一度、抱き締めた。

「俺も探してやるから泣くな。」

「すみません。こんなことで。」

「そういう時は「ありがとう」って言え。」

「はい。……ありがとうございます。」

 体を離す南の手を取って、指を絡めた。
 こんなに取り乱す南が心配でどこかに触れていたかった。

 来た道を戻りながら南はポツリポツリと話し始めた。

「どうしても、大切な物で………。」

「あぁ。」

「父の……形見なんです。」

 驚いて立ち止まると不思議そうに見上げる南と目が合った。

「あの……加賀さん?」

 父親の形見……。そいつは敵いやしない。
 こぼれてしまいそうな失笑をなんとか噛み潰す。

「あの、どうしました?」

「いや。そういうのを後生大事に持ってる奴に見えなかったんだ。」

「どういうイメージですか。
 なんだかひどくないですか?」

「いや。うん。悪かった。」