「何か、言われたんですか?」

「……あぁ。まぁな。
 今日はイケメンに来ていただけて光栄ですとか言われてな。
 そういうの反吐が出る。」

 目を閉じたまま発した言葉には棘があって、よっぽど嫌だったことが伺えた。

 そこまで言うと、体を起こして開き直ったように続けた。

「言われなくても知ってるよ。
 自分の顔立ちが整ってるのは。
 それを武器にもしてる。」

 加賀さんは吐き捨てるように言った。
 本当に嫌だったのだろう。

 でも、自分で言い切っちゃう辺り、すごいなぁと感心する。

 私は何も言えずにただ黙って聞いていた。

「言葉の裏にある、顔がいいから黙ってても仕事が取れるんだろ?っていうのが見え隠れするのが癪なんだ。
 黙ってても手に入るのは女くらいだろ?」

 黙ってても手に入る女……。
 本当、最低だ。

 最低なのに………。

 息をついた加賀さんが再び手を伸ばして頭を優しく撫でた。
 いつもみたいに乱暴にかき回すのではなくて、髪の毛に沿って優しく撫でる。

 それがなんだかとても落ち着かない。

「………愚痴って悪かった。」

「いいえ。私なんて美人だって言われて。
 だから魔女なんて笑っちゃいます。」

「あぁ。そうだったな。
 あと枕営業してるとか言われてた時もあったよなぁ。」

「そうですよ。誰も彼も勝手過ぎます。
 放っておいてくれればいいのに。」

「ハハッ。愚痴を言う相手を間違えたか?」

 加賀さんと顔を見合わせて、笑い合った。

「俺たち似てるのかもな。」

「一緒にしないでください。」

 そこは丁重にお断りしたい。

 肝心なところは真逆なほどに違うのだから。

 だって、私は1人で十分だ。
 こんなに切ない気持ちを何人にも感じていたら沈む心を拾い上げれない。