ご主人の方は加賀さんとマンションの契約やあれこれ難しい話をし始めた。
 とてもじゃないけれど私が出る幕ではない。

 そして奥様もそちらの話には入らないで私の方を時折振り返った。
 そこには期待の眼差しのようなものを感じた。

 何かオススメとか教えてくれるんでしょ?と言わんばかりの雰囲気にプレッシャーを感じる。

 まだまだ私では力不足かもしれませんが。
という言葉を飲み込んだ。

「私に出来る事がありましたら、なんでもおっしゃってください。」

 そう言うだけで精一杯だ。

 奥様は嬉しそうに微笑むと質問をした。

「加賀さんは信頼できそう?」

 私に聞くんだ。と、目を丸くする。

 普通、お客様に上司の悪口を言うわけがない。
 ましてやマンション販売という信用が関わる場面で。

 いつも表情に出さないことは得意なのに、あまりにも意表を突かれた。

 それを見て、奥様はふふっと笑う。

「まだ初々しい南さんから見て、どう?」

 初々しさのかけらもないけれど、嘘を言っても仕方ないと口を開いた。

「信頼……は出来ます。仕事面限定で。」

「フッ。本当ね。
 あなたって正直!私もそう思うわ。」

 楽しそうに手を合わせて笑う奥様が可愛らしくて目を細めた。
 仕事をしているのに不思議な穏やかな時間だった。


「2人盛り上がってますね。」

 ご主人は南と奥様を見て楽しそうに言った。

「えぇ。
 南はお客様と接してこそ力を発揮すると考えております。」

 俺から見ても今の表情はいい。
 魔女になんて見えやしない。

 南の、魔女ねぇ………。

 ご主人には付け加えておいた。

「まだまだ付け焼き刃の知識ですが、きっと南なりにお役に立てるかと。」

「加賀さんがそうおっしゃるのなら。」

 頷いたご主人に安堵する気持ちを浮かべた。