「助かったよ。
 あそこのお子さんにいつも泣かれてね。」

「武蔵さんが?」

 温和な雰囲気で好かれそうなのに。

「雅也には武蔵の腹黒さが子どもにはバレるんだろうって。
 腹黒いのはお前だろう。俺は腹が出てるだけだって言っておいたけど。」

「ふふっ。本当に仲いいんですね。」

「腐れ縁だって。」

 武蔵さんが腹黒いとは思わないけれど、優しいだけじゃないのは分かる。
 それが子どもには怖いのかな。

「南ちゃんが子どもに好かれるのなら、子連れは全部ついてきて欲しいよ。」

「たまたまかもしれないじゃないですか。
 過度に期待されると………。」

「ハハッ。ま、雅也が許さないさ。
 本当は今日、俺と行かせるのなんて嫌だっただろうから。」

「そんなわけ………。」

「おっと、あんまり期待させちゃダメだな。
 雅也はろくでなしだから。」

「存じ上げております。」

 わざと固く言うとプッと吹き出された。

「南ちゃんは自分が何も持ってないと思ってるだろ。
 それはそれで罪だなぁ。」

 意味深に笑う武蔵さんに文句を言う。

「持ってないですよ。
 部長が言うように専門的な知識もないのに営業をやらせる加賀さんの真意が分からないです。」

「専門的なのは俺らの仕事だろ?
 南ちゃんは南ちゃんの出来ることがある。
 今日で言えば奥様の愚痴に付き合って、お子さんと遊んだ。」

 そんなこと………。

 それでいいのかな。
 それで武蔵さんが助かったというのなら。

「雅也は女たらしの人たらしだが、だからこそ人を見る目はあると思うよ。」

「そしたら女関係ももう少しマシにならないですか?」

 ハッハッハ。と豪快に笑う武蔵さんが笑い過ぎて涙目になって言った。

「後腐れなく。
 それを満たす女をちゃんと選んでるだろ?」

 そこの見る目もあるって言いたいの?
 それで……いいのかな。
 いいんだろうな。

 やれる時にやれる女が最高なんて豪語するくらいだから。

 急にがらりと雰囲気を変えて男前風に武蔵さんが言った。

「どうして男は女へ身につけるものを送るんだろうね。
 自分のだって印をつけたいのかな。」

 私がしているネックレスが加賀さんからのプレゼントだと分かって言っていることは明白だった。

 敢えて否定はしなかった。

 武蔵さんの台詞が頭をグルグル回る。
 自分の………そんなわけない。

 武蔵さんの一言に翻弄される自分に苦笑した。
 やっぱり武蔵さんは腹黒いかもしれない。