「離れて自分を試すんじゃなかったのかね。」

 呆れた声を出す武蔵さんに美智さんが突っ込んだ。

「何、言ってるんですか。
 報告を受けて一番喜んでたくせに。」

「そりゃ嬉しいに決まってる。」

「照れ臭いのよ。武蔵さん。
 弟の結婚式みたいで。」

 美智さんに耳打ちされて笑う。

 最初は1週間の休暇で訪れたニューヨーク。

 あれほど頑なに「別れる」と言った加賀さんが跪いて「Would you marry me?…俺と結婚してくれませんか?」と指輪まで渡された。

 指輪は決意として日本を出る前に買って、ずっと持っていたと言われた。
 涙で上手く返事が出来なくて何度も何度も頷いた。

 あと半年以上残る赴任期間。
 私は仕事を休職するという選択をした。

 もう離れたくなかった。

 猫のミチは武蔵さんに。
 というより奥様に。

 武蔵さんには懐かなかった。
 武蔵さんは猫にまで俺は腹黒いと思われてるのかと、ぼやいた。

 マンションは管理会社に登録。
 と言っても何かしてもらうわけじゃない。

 誰にも住まわせたくないという加賀さんの意向で、たまに見に行くのは2人で。

 管理会社に登録するのは何かあった時の保険。

「29歳で結婚よりいいんじゃないですか?
 遊んでたのに30目前で焦って結婚したって思われるよりは。」

 隼人さんがからかい半分でそう言えば武蔵さんがそれにのっかる。

「なるほどな。深い洞察力だ。」

 賑やかで大好きな人達。