帰り道の車内。
 加賀さんは何も喋らない。

 私は流れる景色を視界の端にとらえながらアシスタントをした今日を振り返った。

 まず、酒井夫婦の時に思ったこと。

 お客様だけれど気さくでこちらが元気づけられた。
 もしかして加賀さんは新米の私に初日の仕事を選んで与えているのではないか、と。

 これは私の勝手な解釈で、岩城様への対応もたまたま岩城様のお気に召したことを言えただけかもしれない。

 結果的には岩城様は温かくて豪快な、加賀さんが言うように気持ちのいい人だった。

 そんなお客様達を選んで初仕事にしてくれたのかどうか。

 真相は闇の中。
 加賀さんに聞いたところでかわされるのがいいところ。
 聞く気も起きない。

 だから口をついて出るのは文句だけ。

「泣き言が嫌いなのも言っておいて欲しかったです。」

 加賀さんは運転をしながら当たり前のように答える。

「南は泣き言を言うような奴じゃないだろ。」

 当たってる。
 けれどやっぱり癪に触る。

「腹黒いです。加賀さん。」

「南まで言うな。」

 頭をわしゃわしゃされて「よく頑張ったな」と、褒められた。

「初日に大口契約を取った、しかもアシスタントなんて初めてだ。」

 今度こそヤバイ。泣いてしまいそうだ。

 加賀さんが運転中で助かった。
 お願い。こっちを向かないで。

「……だって魔女ですから。」

「ハッ。ハハッ。
 そうだな。さすが魔女だな。」

 自分から魔女の話を振るなんてどうかしてる。
 けれど今は泣きそうなことを誤魔化すことの方が最優先だった。