「関係を持っておいて……南ちゃんの気持ちを弄んでいくのか。」

 俺は雅也と南ちゃんのことが放っておけなくて、自宅に雅也を呼び出した。
 これは雅也の兄貴の親友で、雅也と腐れ縁である俺の役目だと思うから。

「違うんだ。」

 何かを決意した男の顔をしている雅也が考えを口にした。

「海外赴任の話を聞いたのは武蔵が全て南に話した後だった。」

「そうか。タイミングが悪いことしたな。」

「いや……俺もここまで迷惑をかけた南に何も話さずに消えるのは違うと思ってた。」

 雅也は少し考えるような顔して、それからまた口を開いた。

「昔の話をして、南が俺に嫌気が差したらそれでいいかって。
 南がそんなわけないって分かってたのにな。」

 愛おしい南ちゃんの側にいて手を出すなっていうのも男として酷な話だとは思うが……。
 だったらその手を離さなければいい。

 しかし、雅也も考えなしというわけでもないようだ。

「ろくでなしの俺が待ってて欲しいなんて言えた義理はない。
 ましてや信じて待ってて欲しいなんて笑っちまうだろ。」

「まぁな。今までの行いを見てる俺ならどつきたいわ。
 でも、雅也と南ちゃんは違うだろ?
 南ちゃんは今までを見ていてもお前のことが……。」

 雅也は頭を横に振った。

「俺がそれじゃ嫌なんだ。
 だから……。」

 一呼吸置いた雅也が今までのこいつには到底成し得ない言葉を発した。

「俺が……一度だけ寝た女に縛られてみたい。
 自分自身を試してみたいんだ。」

 今までは想像さえ出来なかった。
 けれど今の雅也なら……。

「それを南ちゃんには伝えたのか。」

「言えるわけないだろ。」

 俺たちが話すリビングの端には俺が仕事を持ち帰った時に使う一人掛けの机がある。
 実はその机の下に南ちゃんが隠れていて全て聞いていることを雅也は知らない。

「本当は南ちゃんのこと信じているくせに。
 だから誰も入れたことのないマンションに住まわせるんだろ。」

「俺はズルイから。」

 力なく笑った雅也は遠くを見るように言った。
 その視線の先にはきっと心の中の南ちゃんを見ている。

「待っててとは言えないけど、俺が帰って来た時に俺のマンションで笑って出迎えてくれる南を夢見てる。」

 馬鹿な男だ。

 けれど俺にも考えを正させることが出来なかった。