「タバコのことも話すよ。」

 こっちを見てそう言った加賀さんは再び前を向き、当時を思い出すようにまた話し始めた。

「俺はあの女がきっかけでタバコを吸った。
 まぁ俺の当時の感じなら早かれ遅かれ吸ってたかもな。
 でも兄さんは吸うような人じゃ無かったのに。」

 悔しそうに拳を握り締めた加賀さんはそれでも続きを話した。

「あの女は自分が手を出した奴に目印というより烙印と言わんばかりに自分と同じタバコを吸わせた。
 珍しい銘柄で、それで分かったんだ。
 兄さんがポケットから同じタバコを出した時は愕然とした。
 その時、鼻についたニオイに逆上して兄さんを殴ってた。」

 軽い笑いを吐いて加賀さんは当時の状況を吐露する。

「自分のことを棚に上げてあんな女と付き合ってるのかって。
 そこから坂道を転げ落ちるように最悪な出来事が続いた。」

 そこからは加賀さんのつらそうな表情を見ていられなくて目を閉じた。
 聞いているのだけでやっとだった。

「全てを奪ったあいつ。
 でも本当に奪ったのは自分だ。
 俺は実の兄を殺した。」

 武蔵さんに話を聞いていて良かったと思う。
 きっと取り乱した加賀さんに聞き直すことも、まして問いただすなんて出来ない。

 誤解してしまうのは嫌だ。

「兄さんが最後にあいつと何を話したかったのか。
 話したって通じる相手じゃない。
 止めれば良かったんだ。
 あの時は、兄さんの気が済むのならと……けじめだと言っていた。」

 途中から涙に濡れて途切れ途切れだけど加賀さんとお兄さんの優也さんとの絆の深さが伺えた。

「こんな馬鹿なお兄ちゃんを待っててくれるか。って言うんだ。
 帰ってくるんだろ?
 あぁ。
 絶対だぞ。
 もちろんだ!って、満面の笑みで……。」

 体を丸めて顔を覆う加賀さんを抱きしめたかった。
 でも、抱きしめる前に伝えなきゃいけないことがある。

「あの、武蔵さんに聞いたんです。」

 武蔵さんが幾度となく加賀さんに言おうと思っていた言葉。
 けれど言っても聞き入れないだろうからと言えなかった言葉。

 きっと今なら聞けるから伝えておいてと託された。

「お兄さんは、あんな女より家族の方が大切だったのに。って武蔵さんに嘆いてたって。」

 加賀さんが声を詰まらせて「あぁ。そうか。そうだったのか。」と涙を混じらせて何度も呟いた。