ソファに深くもたれた武蔵さんは昔を懐かしむように遠い目をして話し始めた。

「雅也の兄貴、優也っていうんだ。
 俺は高校の頃の同級生。
 名前のまんま優しい奴だった。」

 会ったことのない優也さんがどんな人だっただろうと想像する。

「雅也はちょっとヤンチャで。
 それを窘めるような真面目な奴だった。
 雅也も兄貴の優也の言う事は素直に聞いたりして案外可愛い奴だった。」

 加賀さんの高校時代の話に目を細めた。

 武蔵さんは続ける。

「たまたま俺が入社した会社に雅也が入ってきて、楽しかったよ。」

 顔をほころばせて話す武蔵さんは本当に楽しそうだ。
 そして話は上司と部下のことへ。

「あいつは年下だけどまぁずっと基本はあんな感じだから営業は天職だろうな。
 追い抜かれるのなんてすぐだったし、あいつなら仕方ないかって。
 俺があいつの部下でもなんとも思わない。
 あいつは部下を自分より下なんて思ってないような奴だしな。」

 そっか。そういう人だ。
 だから加賀さんが上司でも武蔵さんは納得してるんだ。

 楽しい思い出話から一転して武蔵さんは顔を曇らせた。

「ただ女だけはな。
 気を付けさせれば良かったって今でも後悔してもしきれない。
 俺はあいつの兄貴ではないから、そこまで口出し出来なかった。」

「その頃から派手な感じだったんですか?
 その……女の人と。」

「南ちゃんが知ってる時ほどじゃないよ。
 遊んでる奴だなって程度。
 けど、その相手が悪かった。」

「もしかして、それが恭子さん?」

「あぁ。会ったんだってな。
 嫌な思いしたろ。」

 武蔵さんが顔を歪めた。
 私は首を横に振った。

「私よりも加賀さんの方が……。」

「南ちゃんは優しいな。
 ま、雅也はそりゃそうだろうよ。」

 つらいことを強制的に思い出させられた感じだった。

 その時のことを思うだけで胸が締め付けられる。

 武蔵さんは息をついてそれからまた話し始めた。