しかし加賀さんはまたしても思わぬことを言い出して、涙なんて引っ込んでしまった。

「キスは………南とが何年か振りだ。」

「え……だって………からかってキスされ…え?」

 何が何だか理解が追いつかない。

「悪かったな。頭が足りなくて。
 自分でも気づかなかったんだよ。
 やるだけの女にキスしたくもね……。」

 聞きたくなくて腕にパンチをお見舞いする。

「無神経です。」

「おっと失言。」

 加賀さんは戯けるけど、その失言のせいで妙に現実味を帯びた『キスが何年か振り』の発言。

 加賀さんはふてくされたように続けた。

「だから。
 南には、ついキスするくらいには惹かれてたってことだろ。」

「もう。何ですかそれ。」

 嬉しいのに何故だかおかしくて笑う。
 だって、あの加賀さんが……。

「笑うな。」

「だって。」

「何年か振りの本気のキスの後に素っ気なくされてみろ。」

「何年って加賀さんそういえばいくつでしたっけ?」

「……おい。俺の歳も知らないのか。」

「だって。」

 そんなこと知る暇もないくらいに加賀さんが私の心の中に入り込んで出て行ってくれなかったんだもの。

「南は23だろ。
 5も違うからへこんでたのによ。
 見てたアニメとか違いそう。」

 そんなこと気にするんだなぁ。
 すごく意外。

「それじゃ28……。」

「お前なぁ。俺のナイーブなところを。」

「見えないからいいじゃないですか。」

 それに言うほどおじさんって年じゃないじゃない。

「南が言うと嫌味に聞こえるんだよ。」

 戯れ合ってなんだか本物の恋人にやっとなれた気がする。
 ……恋人って!

 改めて自分で思った『恋人』の言葉に急に恥ずかしくなった。

 加賀さんはどうでもいいことを口にする。

「ま、キスが下手ってことじゃなさそうでホッとした。」

「そうとは言ってないです!」

 もう一度パンチをお見舞いすると、笑った加賀さんがその腕を引いてキスをした。