美智さん……。

 目で追ってみても美智さんと加賀さんが仕事以上の雰囲気で視線が絡まることはない。

 でも……。
 過去は何かあったのかな。

 頭をグルグルする思いはどちらにも打ち明けられない。
 美智さんは今、恋人とすごくいい感じみたいだし、水を差すような真似はしたくない。

 加賀さんに……聞くべきだよね。
 でもどうやって?

 どうしていいのか分からなくて、ずっと避けるような態度を取ってしまっていた。



 肩を落として帰る帰り道。
 呼び止められて足を止めた。

「南!待て。」

 息を切らした加賀さんが私の手をつかんだ。

「何か言いたいことがあるだろ?
 今から俺のマンションに来い。」

 返事をする前から歩き出した加賀さんは有無を言わせずに私を連れて行く。

 初めて加賀さんのマンションに行かせてもらうのに心は晴れなかった。

 マンションのドアの前で、はたと加賀さんが立ち止まった。

「あ、聞き忘れてた。猫は平気か?」

「え、えぇ。」

 玄関に入れてもらうと加賀さんの足にまとわりつく可愛らしい猫がいた。

「可愛い〜。
 猫を飼ってるなんて知りませんでした。」

 加賀さんの方を見ようとすると体を屈めた加賀さんの表情が視界に入った。
 目と鼻の先ほどの距離で柔らかい表情をした加賀さんに胸は嫌でも鼓動を速める。

 視線は猫に向かっていることがせめてもの救いだった。