「……柚?」
ドキ…
10年ぶりに聞いた、その声。
大人の色気も混じったその声に、思わず胸がきゅんとした。
そしてただ一人、貴方だけ。
貴方だけが、私のことを“柚”って呼ぶものだから、あの頃の記憶が一気に蘇るの。
「琉偉…」
安座間琉偉。
私の初恋で、初めて付き合った人。
10年間、忘れられなかった…人。
「久しぶりだな。柚もこの会社だったんだ。」
「うん。企画部の企画開発だったんだけど、異動になっちゃって。明日からはデザイン課なの。」
「そっか。俺は入社時からずっとマーケティング課。」
マーケティング課…安原さんと一緒だ。
「デザイン課なら、マーケティング課の隣だし、これからは会社でも見かけそうだな。よろしく。」
琉偉…全然取り乱すこともなく、普通。
私は、こんなにもドキドキしてるのに。
元カノに会ったんだよ?
少しくらい…戸惑って見せてよ。
「あ、私…隣に住むことになったの。その挨拶しに来ただけだから。…じゃあね。」
なんだか切なくて、早くこの場を去りたくて琉偉から背を向けた。
すると…
「柚、待って。」
腕を掴まれた。