"鬼"上司と仮想現実の恋

「いいよ、そんなの。
じゃあ、急いで食べて移動しよ。」

私たちは、ハンバーガーを口に押し込み、次の訪問先に向かった。

移動中、田中君は営業事務の佐野さんに電話を入れる。

「山波電子さんの契約書を作っておいて。
金額は、見積書通りの物と、念のため百万
引いた物をお願い。」

電話を切って、私たちは電車に乗り込んだ。

「今日、契約書を用意しておけば良かったね。」

私が言うと、

「いや、これでいいんだ。
俺、今月は九千万の売上があるから、明日
契約して来月の売上にした方がいい。
8月はお盆休みがあるから、成績を上げ
にくいんだ。」

「へぇ〜。
営業って、そんな事も考えるんだ。」

「営業の結果は数字が全てだからな。」

「そっかぁ。」

私が妙に納得していると、

「だからって、瀬名、絶対、枕営業はするなよ。
そんな事するぐらいなら、売上0で帰って
こいよ。」

と怖い顔で念押しされた。