10時半。

山波電子さんに到着した。

エントランスの受付に行くと、

「あ、田中さん。」

受付嬢から声がかかる。

語尾にハートマークがついていそうな黄色い声。

「こんにちは、春菜さん。」

「嬉しい!
名前、覚えてくれたんですか?」

「もちろん。
山波社長と約束してるんだけど、いらっしゃる
かな?」

「少々お待ちくださいね。」

受付嬢が内線をかける。

「ただ今、秘書が降りて参りますので、
そちらでかけてお待ちください。」

とロビーのソファーを勧められた。

「春菜さん、いつもありがとう。」

にっこりと営業スマイルを浮かべる彼は、私がいつも知ってる田中君ではなかった。