大広間では作戦会議が開かれていた。

「失礼します!」と真由美。

ためらわず部屋に入っていく。



自然と皆が場所を開け、真由美が座って話しだすのを待つ。



真由美は深呼吸して、

捕まる前からここに来るまでのことを、

一気に話した。



お舘さまの視察に同行し、高台から港を見ていたこと。

先に真由美が男たち3人組に攫われ、

後を追った西宮さんが捕らわれて怪我をしたこと。

3人は西宮さんが一人で倒したこと。

ここまでの道で、怪しい者には出会わなかったこと。

男たちの話から、有馬の裏山に敵軍が集結していること。

港で複数の潜入者が混乱を起こそうとしていること。

混乱後、その者たちはこちらに向かってくること。



見たこと聞いたことを、

すべて漏らさず伝える。

考える時間はそれほど多くない。



皆からもお舘さまの指示を教えられ、内容を理解する。

確かに、

攻める気のないものは、

はやり病を恐れて近づいては来ない。

攻めようとする者は、真偽を確かめ、

今がチャンスとばかりに動き出すだろう。



それに、

あの街は外からの攻撃にはとても頑丈だと思う。

怪しい男たちが、

何をしようとしているのか、

それが成功したのかわからないけど。



ただ、

内部からの綻は、

どんなに堅牢な街でも、

城でも長くは持たない。

そして人の心も。



先づ

早馬が真由美や西宮の無事と

有馬の集落の様子を伝えるだろう。

援軍がきっと来るはずだ。



それまでは、

この場所で役に立つこと、

できることを考えよう。



周辺の地図が広げられる。

この間見たのより、

もう少し大雑把な地図だ。

紙質も情報も薄ぺらい。



地図を見ながら、

ここまでの移動経路を確認する。



ふいに、

名刺交換した人を思い出す。



兵庫県は昔からため池が多くて、

ため池の数は、

今でも日本一なんですよ〜とか言ってた。

名前は忘れたけど、

確か眼鏡姿の行政マンだったような。



その時はへえ~と思うだけで、

深く考えてなかった。

今ではずいぶん埋められて、

人口も増えた。とも言ってたなぁ。



もちろん時代が違うし、

地形も変わっていると思うけど、

念のために、聞いてみた。



やっぱり、

この時代もため池は多いみたいだ。

それも思った以上の、

かなりの数が散らばっている。



敵が潜むならどの場所が最適か、

自分たちならどこに集結するか、

予測して地図上に目印を置いて、

候補を読み上げていってもらう。



面白いことに、

みんなの予想と真由美の予想が一致する。

早速、何名かで裏山に回り敵の様子を探りに行く。

お舘さまには早馬を走らせる。



真由美は躊躇していた考えを口にする。

「ため池を決壊させてはどうでしょうか?」



続けて、提案してみる。



「山のすそ野が大きな堀となるように、

敵の侵入を阻むように、

いくつかのため池を

同時決壊させてはどうかと思いまして。」



静まり返る大広間。



先祖が苦労して、

長い年月をかけて築いた「ため池」を、

造りはしても壊すバカがいるとは。

夢にも考えたことがなかっただろう。



でも、

永遠に続くかと思った静寂が破られ

一人が口火を切ると

次々と作戦実行に向けた考えを口にしだした。



不安よりも、戦を戦い抜くことが有馬の総意だった。

みんなの脳内アドレナリンは最高潮に達し、高揚していた。