彼が帰ってきた。
そしていつもそうであるように、わたしの手を握って、わたしの隣で眠っていた。
顔が張っているような気がするのは涙の乾いた跡。
どれくらい時間が経ったのだろう。
彼の手の温かさが懐かしい。
起こさないようにしなきゃ、とやっと思いついた時にはすでに遅く、彼は眠そうな目でわたしを見つめていた。
小さくあくびをしながら、彼はわたしを後ろから抱きすくめるように身を起こした。
「起きたかな」
「遅いよ」
「ごめんね」
彼はいつも理由を答えない。
それがわたしをどれだけ悲しませるか彼は知らない。
「香水零したんだね」
「うん、ごめんね」
「いいよ。どうせいつかは無くなるんだし」
「魚も、死んじゃった」
「ああ、見たよ」
彼が少しだけ水槽のほうを見た気がする。
瓶が沈んでいるのもきっと見えるはずだ。
「最期まで、ちゃんと見てたよ」
「ありがとう、彼らはきっと天国に行ける」
「ねえ、ひとつきいていいかな」
彼は応えない。そのくせにわたしの言葉を待っている。
「あの二匹、どうして別々の種類なの」
水槽の中には、二種類の魚の死体が浮かんでいる。
一つは極彩色の艶やかなひれを持つ華奢な魚、一つはグレイの鱗に包まれたひげのある魚だ。
一つの水槽に異なる種類の魚を一匹ずつ、彼は、何も言わずに彼らを水槽に押し込めた。
「僕達に似せたんだ」
彼はそれだけ言うと、わたしの背筋を撫でた。
背骨の隙間に爪を立てるようにして、首筋から、一個一個、鱗を剥がすように。
「僕の水槽はこの部屋だよ、人魚姫」

