色々あった冬を乗り越え、新しい春を迎える頃。
その内示は提示された。

「橋詰さん、ちょっとこっち」

人事部長と経理部長が揃って私を呼ぶ。
そんな珍しい光景にフロアの人間もこちらを見ている。

三週間前に無事なのか分からないが結婚した陶野もこっちを見ていたが、それは丸無視した。

「あら、菜々子ちゃん何かしらね?とりあえず話聞いてらっしゃいよ」

そう言って隣の席のベテランで主任の吾妻さんに見送られ、私は人事部長と経理部長の待つ会議室へ向かった。


「橋詰さん、とりあえず四月一日付けで異動の辞令が出ていてね。その内示だよ」

現在3月の半ば過ぎ。
むしろ後半戦に入り現在の経理部は忙しさのピークである。
その繁忙期の経理部社員を捕まえて異動の辞令の内示ですって?
思わず耳を疑っていると、うちの経理部長と人事部長は同期で仲良しなオジサンである。
私を前に砕けて話し始めた。


「ウチとしてはね、他所に出したくなかったんだよ?菜々子ちゃん程仕事出来る子手放したくないでしょ?」

「それを分かってたから、人事部としても異動の予定はなかったんだけど。上層部が動いちゃってねぇ。ほら、君は美人な上にハイスペックだろう?目をつけられちゃったんだよねぇ…」

先は経理部長、後は人事部長。


「ほら、この総合商社で簿記一級も助かってたんだけどね。君元々は外国語学部の出身でTOEIC900ってもう海外事業部でも良いからねぇ…」