俺の生い立ちを知れば寄ってくる女は数知れず。

なので、面倒にならなそうな女だけを相手に来る者拒まず去るもの追わずの、それこそ一夜限りの相手ばかりをしていた。


そのツケが回ってきたのだろうか。


今朝はため息だらけで出社する。
運転している秘書であり、友人の三笠誠(みかさまこと)も思わず突っ込んできた。


「お前、今朝はどうしたんだ?そのため息、辛気臭いぞ」


この、デキる男の誠は先日二人目に待望の女の子が産まれて日々幸せ全開な奴だ。


「今日夜空いてないか?」

「今日は会食の予定も無いし、嫁さんと子どもはまだ嫁の実家で世話になってるからな。お前のそのため息だらけの理由は聞いてやれるよ」

「頼む、誠が頼りだ!お願いだから助けてくれ」


そんな会話をして出社した本社エントランスホール。

神様は俺を見放していなかった事に、心から感謝した。


本社のエントランスホール、俺の先を歩く社員の中に昨夜の彼女を見つけた。
間違いなく彼女だ。
化粧はナチュラルで、通勤服もオフィスカジュアルなので雰囲気こそ違うものの、俺が愛してやまない彼女に間違いない。


「見つかった、誠。あそこに居る黒髪ストレートのメガネを掛けたキャメルのコートの女性誰かわかるか?」

「あぁ、彼女は経理部の橋詰菜々子さんだね。仕事が早く正確で経理部長も一目置く女性社員だよ」