アスカラール

ビルを後にすると、
「あの、どこに行くんですか?」

美都は成孔に声をかけた。

「俺の家」

成孔が美都の質問に答えた。

「い、家ですか…?」

そう聞き返した美都に、
「うん、家」

成孔は首を縦に振ってうなずいた。

「変なことはしないよ」

「…はい?」

「俺のことを知って欲しい、ただそれだけだから」

成孔は眼鏡越しで微笑んだのだった。

タイミングよくきたタクシーに乗ると、成孔と一緒に彼の自宅へと向かった。

「紙袋の中身は何?」

ヒョイッと紙袋を見せると、成孔が聞いてきた。

「オランジェットです、私が作りました」

美都の答えに、
「オランジェットって、オレンジにチョコレートを浸けたお菓子だよね?

作るの難しくなかった?」

成孔は驚いたと言うように聞き返した。