「森坂さん、俺は何もしませんよ。

ただ美都ちゃんといろいろと話したいだけですから」

成孔が苦笑いをしながら言った。

「じゃあ、先に帰ってるから」

元治はそう言って美都に手を振ると、父親と一緒にこの場から立ち去った。

兄と父の背中が見えなくなると、
「美都ちゃん」

成孔が名前を呼んだ。

彼と一緒に中華料理店を出ると、
「あの…」

美都は声をかけた。

「どうして、私と話がしたいって言ったんですか?

有栖川さんは兄と一緒に話がしたかったんじゃないんですか?」

そう聞いた美都に、
「“成孔”でいいよ」

成孔が言った。

「えっ?」

聞き返した美都に、
「“有栖川さん”って、言いにくいでしょ?

だから、“成孔”でいいよって」

成孔が答えた。