「……ごめん、りんご飴」
「え?」
「さっき落としてたろ」
「ううん」
「買いに行くか」
「うんっ」
ふたりで立ち上がった。
彼の手が、手首から、手のひらに移動した。繋がれた手に喜びを感じる。
目が合って笑うと、大志くんは顔を照れたように横に向ける。
これは、夏の魔法なのだろうか。
高校生になってはじめての夏。はじめての花火大会。はじめて、好きな人ができた。はじめて、好きな人とお祭りにきた。
アクシデントがあったとはいえ、ふたりきりになれたこの状況が嬉しくないわけない。
「好き」だと、言われたわけじゃない。私も、言ったわけじゃない。
だけど先ほどの彼の言葉、繋がれた手、向けられる視線、笑顔。そのすべてが私の心にじんわり溶けて、染み込んでくる。
淡いパステルカラーとして、甘酸っぱい恋の匂いがする。
大志くんは、恋なんて信じないと言っていた。恋なんてしたくないと。
だけど、私、やっぱり諦めたくない。
「……大志くん」
「ん?」
「私が大志くんを変えてみせる」
また屋台が立ち並ぶ場所まで戻り、大志くんがお詫びにとりんご飴をご馳走してくれた。棒の部分を握る手にチカラがこもる。
一方で大志くんはキョトンとしたように目を丸めていた。
「恋を信じてないなら、私が信じさせてあげる」
「…………」
「私、大志くんのこと、好きだもん」
ガヤガヤと周りが騒がしいこんなところで言うべきじゃなかったのかもしれない。こんな、大事なこと。
だけどいま言わなかったら私、ずっと言えないと思ったから。



