「似合ってるよ」
目を細めて、お世辞。優等生の彼らしい言葉だ。まるで"今日の俺はこっちで行くから、お前ヘマすんじゃねぇーぞ"って釘を刺されているみたい。
「ありがとう、大志くん」
上っ面な会話。本当だったら"思ってもないくせに"って、絡んでいくけど、会話はここまで。
大志くんも浴衣、似合ってる。
背が高いし、肩幅もあるから、どこかのモデルさんみたい。雑誌の浴衣特集に大志くんがいても違和感ないかも。むしろ表紙を飾ってほしい。
そう思うのは好きのフィルター越しに彼のことを見ているからなのかな。
「あのね、ももかちゃん、ちょっといい?」
「ん?」
私のことを手招きするクラスメイトの女の子に首をかしげて、グループからすこし離れたところまで歩く。
「実は私、大志くんのこと狙ってるんだ」
「え?」
「だから実は今日無理やり呼んだの。協力してくれる?」
心の温度がひんやりと、下がったような感覚に陥った。上目遣いで聞いてくる彼女は確信犯だ。自分が可愛いことを知っている。そして、それは私にNOを言わせないようにしているのだと、はっきりとわかる。
「……うん、わかった」
作った笑みに、温度はきっとない。
でもあからさまにクラスメイトの女の子は「ありがとう」と笑った。
嫌だと言うことも、できた。けれど、私の恋心は隠さなきゃいけない。
大志くんに嫌われたくないから。
この子はきっと知らない。彼が恋が嫌いなこと。恋なんて、したくないと思っていることを。
彼を相手にした恋の攻略法なんてないのだから。



