俺がこんなに好きなのは、お前だけ。




あの日、夏休み前最後の帰り道。君が漕ぐ自転車の後ろで、触れた君の体温。背中。胸のドキドキは、心地よいリズムを刻んでいた。特別な時間すぎて、忘れられないの。変態っぽいよね、ほんと。


毎日、ふとした瞬間に思い出しているんだ。


会ってなくても、恋をしている。そう実感させられる。これが恋なんだ。記憶のなかにいる彼に焦がれて現在進行形で会いたくなる。でも会ってもたいしたこと言えないし、できない。きっとそう。


臆病になる。嫌われたくないし、あわよくば好きになってもらいたいとすら思うのに。


会えない時間にも、恋する気持ちはどんどん深まっていく。
ただ息をして、歩いているいまも。



「ももか!こっちこっち!」



改札を抜けて、人混みに紛れて歩いていた私に届いたクラスメイトの声。
見知った顔をようやく見つけることができて、私も安心感から笑顔になる。


そして、予想外の人物が目に止まって、時間が止まった感覚がした。



「よかった、無事に合流できて。あ、そうそう、今日ね、急遽大志くんも来れることになってさ……」

「…………」



にこにこと頬をピンク色に染めて話しを続けるクラスメイトの声は、もう私の耳には届かない。目の前には浴衣を着た、大志くんがいた。


とても声にならない。まさか、願いが叶うなんて。

──会えた。



「小田さんも浴衣なんだね」



微笑まれる。お得意の営業スマイルかもしれない。みんなの前だから、みんなと同じ顔で笑って話しかけてくれているのかもしれない。


それでもいい。いまは、それでも嬉しい。