俺がこんなに好きなのは、お前だけ。




私、本当に恋をしているんだ。

彼に。優しい、彼に。


その日再び私は彼の自転車の後ろに乗って帰った。しっかり掴まれと言う彼の腰に触れ、夏の情景に見守られながら私の夏休みは始まった。



***



夏休みが始まってすぐの週末、日曜日。今日は約束していた花火大会の日だった。
母が新しい浴衣を新調してくれた。ピンク色の、可愛いものだ。


髪の毛も可愛く結ってくれて、髪飾りも華やかで素敵なものをつけた。
張り切り者の母がメイクまでばっちりしてくれて、娘としてはただ着せ替えされている人形のようにただそれを鏡越しに見ているだけだった。


メイクには興味あるのだけど、イマイチよくわからない。化粧品のメーカーも種類も山ほどある。雑誌を読んでいても、よくわからない。値段もピンキリだし。



「行ってきます」



下駄を履いて家を出た。カラカラと音が鳴る足元に、夏を感じる。時刻は午後6時を回っているのに、まだすこし夜にしては明るい。空は藍色。


待ち合わせ場所は、花火大会会場の最寄駅入口前にある犬のオブジェのところらしい。たぶん、私たち以外にもそこで待ち合わせする人たちもいるだろうから、無事に合流できることだけを願う。


家の最寄駅から数えてふたつ目の駅がそこだ。ちらほらと浴衣を着た同世代の子や、カップル、家族がいて、みんな目的地は同じなのだと思うと私の願望がちらほらと期待をはらむ。


──大志くんも、来ないかな……。