俺がこんなに好きなのは、お前だけ。




そういえば昨日、決まっていつも帰宅後すぐに洗濯に出しているハンカチがポケットに入っていなくて焦って探していたことを思い出した。


あのとき落としていたからなかったのか。



「……どーも」



受け取って、軽く頭をさげて気持ちのこもっていない一瞥を彼にやった。


すると彼は微笑んだ表情をしたまま眉を一瞬だけピクッと動かした。イラッとしたのがまる見えだ。


私はぷいっと彼がいる反対を向いた。
遠くへ行く足音。数秒後、そばからいなくなったことを確認する。



「……ほんと、なにがあったのやら」

「言いたくない。思い出したくないから」

「はいはい」



結衣羽と佐野大志の話題はそれで終了した。


それから私はなにかと大志くんを毛嫌いするようになり、あちらも同じく私のことを見るとあからさまに顔をしかめるようになった。


お互いがお互いのことが苦手なのがわかっていて、周りもそれを理解し始めた頃、とある噂が頻繁に耳に入ってくるようになった。



──「佐野大志には、忘れられない初恋の人がいるらしい」



そんな噂が出回っていた。
嘘か真かは、定かではない。どこからの情報かも、わからない。


あんなやつのこと、別にどうだっていい。気になったりしない……って、言えたらどんなにいいか。



「…………」




今日も爽やかな笑顔でクラスの中心にいる彼を睨むように見る。
彼の席の周りにいる男の子も、女の子も楽しそうに笑って話している。


……気に、なる。


あの、サイコパスのような佐野大志に、忘れられない初恋があるだなんて。
それが本当なら詳しく聞きたい。知りたい。