もう一度ため息を吐きかけたとき、クラスメイトたちがざわついて、アノ人気者が登校してきたことを知らせた。
肩に負荷がかかったみたいに重くなって、気持ちがげんなりする。
「大志、おはよ!」
「おはよう、大志くん」
「ちーっす!」
「あはは、おはよう!」
みんなが待ってましたと言わんばかりに彼に挨拶するサマを、私は頬杖をついて眺める。まるで動物園みたいだ。
当の本人は「みんなおはよう」だなんて爽やかな笑顔で返しているのも、なんだか腹立たしい。
そんな私に気づいていないのか、結衣羽が「お、ももかの王子様がきたよ」なんてニヤついている。
「やめてよ、マジで。あんな人願い下げだから」
「あれ、どうしたの、いきなり」
「昨日ちょっとね」
クラスメイトがたくさんいる教室で、あまり話せる内容ではないけれど。
みんなあの笑顔に騙されているんだ。本当は人の気持ちがわからない冷たい人なのに。
「ようやくももかにも春がきたと思ったんだけどなあ」
「勘違いだったんだよ」
顔が整っていて、あんな爽やかな笑顔で優しくされたら誰だって好きになっちゃいそうになるよ。女の子の気持ち、わかるよ。
でも私はもう騙されない。
女の子の告白をあんな風に断る最低な人、好きになれっこない。
落ちかけた夢から覚めたんだから。
「小田さん」
呼ばれて肩と心臓がびくっと跳ねる。
振り返るとそこにいたのは心のなかで毒を吐いていた相手、佐野大志くんだった。
「これ、昨日落としてたよ」
差し出されたのは、黄色いハンカチだった。



