彼の顔に不穏な陰が落ちている。静かな怒りのオーラが彼の背後に見える、気がする。
私は引きつった笑みを浮かべたまま逃げようと足を後ろに引いた。いけない。後ろは壁だった。



「人の告白盗み見るとか悪趣味すぎじゃね?」

「べ、べつに見たくて見てたわけじゃないし……」

「それにしては滞在時間長かったな」

「へっ?」



鋭い指摘。動揺して短いその声が高くどこかへ飛んだ。

額から汗がにじんでいるのがわかる。



「隠れきれてねぇーから。普通に見えてたから」

「そ、それは誠ですか……?」



私、日本語不自由かよ。


ぽっと出た私の意味不明な言葉に返事はなく、代わりに睨みが強まって「ごめんなさい……」とこぼした。これはもう私の完敗だ。



「嘘つき」

「ごめんなさい……」

「性格悪い女だな」

「そ、それはあなたの方でしょう⁉︎」

「あ?」



低い声をだされて狼狽えつつも、負けじと私も目線をそらさないように気をはる。


だって性格激変してるじゃん。大志くんって優しくて、頭良くて、よく笑うみんなの人気者、優等生さんですよね?


いま、顔、こわいし。そんな険しい顔できたんですね、大志くんって感じ。声だって低いし、言葉は厳しい。


それに、なにより……。



「……あの子、可哀想だった」



思いのほか私の声も低くなってしまった。
さっき私の横を通り過ぎていった女の子の目尻から光って見えた涙。振られたのは私ではないのに、それを見た私の胸までもが痛んだ。


絶対あの子の心も同じように痛いに決まっている。
好きな人から拒絶されるの、うれしい人なんていないはずだから。



「俺、安易に告白してくるヤツ大っ嫌いなんだよね。俺のどこを好きになったわけ?話したこともなければ、名前だって知らないのに、付き合えるわけねぇーだろ」