リビングで両親は話し合っていた。

「あの子…私の事件のこと知ってたわ…」
母が不安そうに言った。
「ああ…、どういう事件だったのかも」
「ええ…」

やっぱり記憶を共有しているのだ。
それがいいこととは思えない。

しかし、どうすればいいのかわからない。途方に暮れるしかなかった。




綾音はむくりと起きた。

夢は見なかった。これでいいんだ。
自分に言った。

リビングにいくと夕飯の匂いがした。

「お母さん、晩御飯なに?」
普通に聞いた。
母は一瞬間を開けて言った。
「ハンバーグよ」
「やったぁ」
綾音は席についた。

久しぶりにご飯が美味しいと感じた。嬉しかった。

もりもりと食べる綾音を両親は見ていたが言葉はかけなかった。
それに気付いた綾音が口を開いた。

「私、これでよかったと思う」
「え?」
父が聞き返した。

「すごく楽になったの。夢にも怯えなくていいし」

そう言われて、それはよかったと言える状況ではないことを両親は分かっていた。
かをりはそこまで考えて共有したんだろうか?あの子は賢い子だった。

でも…
辛い記憶を持って良かったって言える綾音が分からなかった。

両親にはかをりが最後のとき、穏やかだったことが分からないのだ。



綾音は、すべてが解決したように思えてさえいた。






翌日になって綾音は学校へいく準備をしていた。

何故かうきうきしていた。

なんでだろう?

綾音はよく分からなかったが、ここ数日、学校も億劫だったのに心が軽い。

「きゃ、こんな時間!」


綾音は慌てて家をあとにした。