帰りの車内は沈黙していた。
誰も言葉を発しない。

綾音は記憶を遡っていた。

そうしないとどちらの記憶かわからない。

当たり前のように思い出してもそれがかをりの記憶だったり、綾音の記憶だったりするのだ。

沈黙を父が破った。

「…平沢、死んだあとのこと、覚えてるか?」
母は驚いて父を見た。

「うん、先生が私のせいで先生じゃなくなって辛かった。なんとかしなくちゃって思ったの。そしたら彼女さんがあの人のせいで怖い思いして…飛び降りたとき、霊力全部使っちゃった」

「そうか」
「うん」

綾音は自分がかをりとしての記憶を話していることに気付かなった。

家に着くまで車内は静まり返っていた。


家に着いて、車を降りると綾音は声をかけた。

「なんだか疲れたから少し寝るね」
「…わかった」

父の言葉を聞いて、綾音は部屋へと入った。
部屋着に着換えてベッドへと腰を下ろした。

記憶を共有したことで夢への不安は無くなっていた。

だって全部知っているんだもん。
苦しいほどの裕ちゃん先生への思いも、いじめられた辛さも。
でも、死ぬときは驚くほど心が静かだったことも。これで終われるって思ったら楽になった。

そして、苦しい産道を抜けて産まれた自分を見て喜んでいる父を見たときの嬉しさも。

…そう、全部知っている。

綾音の心は夢で怯えていたときより穏やかだった。

安心したのか眠気が襲ってきた。

「ちょっと寝よ…」

そう呟いて綾音は布団へともぐりこんだ。




父への気持ちが変化していることに気付かずに眠りに落ちた。