「おっ、綾音、制服似合ってるじゃないか!」
綾音の新しく来た中学の制服の試着を見て嬉しそうに呟いた父・裕二。
「うん、いいんじゃないかしら?」
同じく嬉しそうな母・綾香。

鏡の前で嬉しそうに自分を確認している綾音。

「いいかな?イケてる?」
綾音の問いにイケてるイケてると嬉しそうに答える両親。

綾音は母の血が濃いのか母にそっくりだとよく言われる。
母は細く、髪の毛はふわふわのロングでちょっと守りたくなるタイプ。
でも、綾音はロングではなくショートの髪の毛をしていて、周りには髪の毛を伸ばしたらいいのに。と言われるが下を向いたときにだらっと落ちてくる髪の毛にいらいらしてしまうのだ。
少し短気なところは父に似たのかもしれない。ハキハキとしていて周りの人気者だ。
でも、そんな自分を綾音は気にいっていた。

綾音の父・上屋(かみや)裕二は綾音の進む中学の先生だ。昔はイケイケのイケメン先生だったらしいが今ではすっかり落ち着いたおじさんだと綾音は思っている。
家ではだらだらとして母・綾香によく怒られている。
でも、両親の仲は良い方だと思う。
母が怒っても父が母を怒ることはない。嬉しそうに聞いていてマゾなのかな?と思うことすらあるほどだ。
でも、母も本気で怒っている感じでもない。
この2人は奇妙だ。と不思議に思っている。

そんな綾音も4月から中学生だ。
新しい環境になることにわくわくが止まらなかった。
父の仕事風景も見られることにちょっと期待もしていた。

結局、綾音は両親が大好きなのだ。



入学式は桜が終わりかけの頃に行われた。
流岩中学は校庭の広いゆったりとした学校だと思う。

そう思っていると上級生がわっとクラスの窓に張り付いた。

「裕ちゃん先生の娘ってどれ!?」

自分を探しているのだと気付くとちょっと恥ずかしかった。
父は裕ちゃん先生と呼ばれていると知った。いい歳してるのにちょっと恥ずかしい。

「あ!あの子じゃない?上屋って名札してる!」

少し困っていると先生らしき人が怒鳴り始める。

「あなたたち!もう教室に戻りなさい!」

不服そうな言葉を口ぐちに言いながら上級生は去っていった。


「…怖そうな先生…」

ちょっと不安な中学校生活の幕開けだった。