しばしの沈黙の後、和泉が口を開く。

「俺たちの関係を、社内で公表してもいい。」
「えっ!」

意外な言葉に、有希は固まった。

「だがそれをすると、お前は総務部へ戻ることになるが。有希がその方がいいなら、そうしよう。」

社内恋愛は禁止ではない。
だが、同じ部署にいることはタブーであるという暗黙の了解がある。

総務部へ戻ると仕事で和泉に関わることはなくなる。
姿を見ることもなくなってしまう。
それは寂しい。

「やだ…。」

漏れ出た声は切なくて、和泉の袖を掴んだ。
離れたくない。
いつだって側にいたい。
公私混同はしないけど、仕事中だってできれば近くにいたい。
顔が見れる、声が聞こえる距離にいたい。

すがるように和泉を見る有希に、また頭をポンポンとしてやる。
その手は頭の上から耳へ頬へ下りてくる。
有希はくすぐったくて首をすくめた。

「有希が不安にならないように、俺がいかに有希を好きかわかってもらわないとな。」
「えっ…。」

頬を撫でられたまま顔が近づいたかと思うと、触れるだけのキスをする。
そっと離れたかと思うと、

「いつだってこうしてお前に触れたい。」

今度はもっと深く激しくキスをする。
コツンと眼鏡が当たって、和泉は眼鏡を外した。
初めて見る顔に、有希は胸が高鳴る。
男の人なのに本当に綺麗でセクシーで、そして控えめな香りが余計に有希をドキドキさせた。

有希は恥ずかしくて何も言えない代わりに、和泉の胸を押す。
そんな小さな抵抗に和泉は微笑みを落とすと、

「有希、お前は勘違いをしている。俺は真面目でもなんでもない。ただの男だ。」

そう言って有希を優しく押し倒す。
動揺して上手く言葉が紡げない有希に、和泉は「可愛いな」と言って、またひとつキスを落とした。

どうしよう。
どうしよう。
和泉さんに触れられるたび、見つめられるたび、身体の力が抜けてしまう。
私を見る眼差しが、声が、仕草が、全てが、大好きで愛しくて。
とろけてしまいそう。
こんなにも胸がいっぱいになって。
嬉しくて嬉しくて。

あんな小さなことで嫉妬なんてしてしまう私はバカみたいだ。
それなのに、和泉さんに優しくされてすぐ機嫌がよくなって。
子供みたいで呆れちゃうでしょ。

じわりと涙が浮かぶ。
そんな有希の心を見透かしたように、

「どんな有希も好きだ。だから俺の側にいろ。」

そう言って不適な笑みを浮かべる。
命令形なのにその言葉が嬉しくて、有希はコクンと頷いた。

そして、和泉に身を委ねる。


心も身体も満たされて幸せでたまらない。
幸せで幸せで。

私はいつもあなたに翻弄されて。
それでも好き。
大好き。


【END】