しかし、ラクベスが眉を寄せたのはシャツに記された凄惨な跡ではなく、二人にしか見えない、どす黒い意識の残りカスだ。

「これに長いあいだ触れましたか」

「鑑識なら触ってたかもな」

 なんでそんなことを聞くのかと夢木は顔をしかめる。

 ラクベスはシャツをじっと見下ろすと、右手を前に出し目を閉じた。ほんの数秒、閉じていた目を開きシャツを戻す。

 夢木はふと、微かではあるが彼が目を閉じたとき、耳の奥で何かが弾けるような音を聞いた気がした。

「ありがとうございます」

「もういいのか」

「はい。直接、話が聞けて良かったです」

 資料を全て箱に戻すと、それを持ち上げて受付に向かう。夢木は一体、何だったのかと同じく部屋を出た。

「借りていた資料をお返しします。佐々木さんにもありがとうと伝えてください」

 丁寧に箱を返し、出て行く二人の背中を夢木はしばらく見つめていた。