どこに行ってもすぐ海が見えるような街。

そこが俺の生まれた島だ。

透き通る海に広大な自然。

「海とともに生きる街」
そんな売り文句でテレビに出ていることも度々あった。

それを見て本気で移住したいと思う馬鹿な奴らがいるらしく、その中でも行動力のある馬鹿は時々本当に移住してきた。

決まって俺の町の特集が組まれる夏頃に来るから引っ越してくる家族は夏休みの風物詩のようなものだった。

ただ夏休みの風物詩と言うからには夏休みだけだから風物詩な訳で、そんな行動力のある馬鹿でも、隣の家まで徒歩20分のこんなド田舎な街では長くて1年。短くて14時間でリタイア。

あの子はお父さんがその行動力のある馬鹿だった。
そして耐久力もある馬鹿だったらしく、あの子は1年もこの島にいた。

移住してきた人で最長。

たかが1年。

されど1年。

彼女の黒い髪は今でも鮮明に思い出せる。

あの時の僕は、彼女が好きだったのかもしれないしそうじゃなかったのかもしれない。