「ぎゃあああ!!!虫!」

「え、ほんまに無理!!!!」


蝉の声をもつんざくような女子の声。

4時間目の国語の授業。
生徒の興味はつまらない枕草子の読解より窓から入ってきた虫に集中した。

ちょっとした騒ぎにもなって、寝ていたはずの生徒も顔を起こしている。

これでは授業にならない。

「ちょっと待ってな。今行くわ。」

すぐさま僕は窓に向かった。


「お、さすが。」

1人の男子が口笛を鳴らす。
それを後ろに窓を開け虫を逃がした。

こんなに騒がれれば虫もいい迷惑だろう。
虫というだけなのに、存在で騒がれてちょっと可哀想である。

虫が逃げれば騒ぎも終わる。
顔を起こしていた生徒はもう一度寝る体勢に入った。

全ては元の授業に戻る(戻ることがいいかどうかは置いていて)はずだったのだが

「そんな騒ぐことでもないやろ。」

1人の男子が声をこぼした。
野球部の鈴木だ。

僕は心の中で頭を抱えた。
この言葉の後に続く言葉を僕は知っている。
鈴木!そのあとの言葉は言わん方がいい!!

そんな僕の心の声虚しく、彼は続けた。

「やから女って嫌いやわー。」

言ってしまった。
こうなれば女子が突っかかるのは時間の問題、、

「は??」

僕が予想したシナリオ通りに鈴木に反応したのは確かテニス部(仮)の町田だ。
(仮)というのは、校則違反をしすぎて休部にされているから。そしてさっき騒いでいた女子の1人でもある。

しかし無視を怖がる可愛げはどこえやら。

校則違反のメイクをした眉をひそめ鈴木に詰め寄った。

「何言うとん鈴木。」

どうやら町田の機嫌を損ねたとやっと気づいた鈴木はタジタジだ。
しかしここで負けるのは彼のプライドが許さないのだろう。体制を整え反撃に入る。

「別に事実言うただけやろ。何をそんなに怒っとんねん。それかあれか?こうちゃんの前でそんなこと言われたら困るんか?」

鈴木、爆弾投下。
これはさすがの町田にも効くと思ったその数秒後

「は?あんたこそ瑠花の前でそんなこと言ってカッコつけたいだけちゃうん。でもこういう時に虫を追っ払ってくれへん癖によーそんなこと言えんな。」

さあ、来るぞ。

「やから男子って嫌なんよ」

鈴木撃沈。
彼には可哀想だが昔の自分自身と全く同じシナリオで撃沈する姿はこちらから見ると正直面白い。

あの時も僕は同じように「女子が嫌い」だといい、やっぱりその時も同じような答えが返ってきたのだ。

「やから男子って嫌。いっつもいっつも口ばっかり。」

そう言っていたあの子は元気なのだろうか。

そう思いを馳せながら俺は黒板の前に戻り授業を再開させた。