さようなら、ディスタンス。



無造作風にセットされた髪の毛が風に揺れている。



この子は、確か1つ下の後輩だったような。


地元にいた時、ライブに来てくれた記憶がある。



「えっと……久しぶり、だね」



顔見知り程度の関係だったからか、どう挨拶を返したらいいか分からなかった。



「何してるんすか」


「クラス会の帰り。そっちは?」


「妹が花火したいっつったんで、あそこのスーパーで買ってきたとこっす」



彼は顎で大型スーパーの方角を差してから、景色を背にして僕と向き合った。



「『東京』いい曲っすね。youtubeで見ました」


「ありがとう」


「なんで東京出たんすか? 彼女置いて」



真下をトラックが駆け抜けたらしい。がたんと歩道橋が揺れた。



「彼女……未織にはフラれてるよ、おれ」


「知ってます」


「じゃあ今さら聞くことじゃないでしょ」



未織との関係を他人に掘り起こされたくない。そう思い、彼の前を通り過ぎようとした。が。



「未織の右耳、見ました?」と言われ、足を止めた。



「……右耳?」


「ピアス、ついてませんでしたか?」



別れを告げた時の未織の記憶を呼び起こす。


特に注目していなかったため、その場所は空白だった。



そうだっけ? という前に、彼はこう続けた。



「あれ、俺が空けたんっすよ」



彼は無表情のまま。でも、視線はまっすぐに僕へと向けている。