さようなら、ディスタンス。



「寂しい?」



厚みのあるつややかな唇から、甘い声が発される。



「うん。寂しいよ」



自然と、本心が漏れた。


ずっと誰かに慰められたかったのかもしれない。



「辛い?」


「うん」



麻里奈は僕を包み込み、首の後ろに腕を回した。


密着した体から温もりが伝わってくる。後ろ髪が優しく撫でられる。



一時的なものかもしれないけれど、未織を失った苦しさが癒されるような気がした。



「じゃあ、私たち本当の恋人になっちゃおうよ」


「……え」



意外すぎる言葉に驚いたものの、彼女の火照る肌に応じるように、自分の体も熱くなる。



体に押し当てられるやわらかな感触。


さっきまでの明るい雰囲気からの変化。



耳元に唇が寄せられ、反射的に息をのんだ。



「家、来ない? ……全部忘れさせてあげる」



耳をかすめる熱い吐息。言葉。


どくん、と鼓動が全身に響く。思考が停止しそうになる。



しかし、色っぽい囁き声とは裏腹に、僕に触れているその手は軽く震えていた。



ここで簡単に手を出すほど、心は壊れていなかったらしい。