さようなら、ディスタンス。



卓くんからラインが来た。



『快適なネカフェ見つけた!』『光は今日どーすんの?』



関西の地理感もホテル代もない僕は、麻里奈と別れて卓くんと合流することにした。


ちなみに湯朝さんは知り合いのところに泊まるらしい。まあ、女だろうな。



「今日はありがとう。お礼はいつかするから」



カップルが一定の距離をとって座っている鴨川沿い。


背後に並んでいる川床の灯りが、揺らぐ川に輝きを与えている。



僕たちもはたから見たら恋人同士に見えるんだろうな、と思いつつ、立ち上がろうとした時。



「……光」



麻里奈にシャツをつんと引っ張られる。


座ったまま振り向くと、温かい重みが加わった。



肩に頭が乗せられ、腕が絡められていた。



「どしたの? 酔った?」



具合でも悪いのかなと思い、彼女の行動を受け入れる。



1人でこの街に来た麻里奈。


きっと楽しいだけじゃない。つらさや苦しさも抱えているはず。



「…………」



麻里奈は僕にしがみついたまま、首を左右に振った。



軽く汗ばんだ体から甘い香りが漂ってくる。


どうしたんだろう、と思うと同時に、心がうずいた。



「ねぇ……彼女と別れたんでしょ?」


「あ。うん、そうだよ」



街灯や川沿いのお店の光によって、彼女の顔が半分照らされる。



どうして別れたことを知っているんだろう。


疑問に思ったものの、彼女から目が離すことができなかった。



色気を帯びた眼差しに捕らえられていたから。