バンドで売れたい。音楽でご飯を食べたい。


そう願ってはいるものの、将来はまだ見えていない。


暗闇の中をライトを持たないままやみくもに走っているような毎日。


卓くんの言葉はかすかな光であるはずなのに、「へぇー、そうなんだ」と僕は棒読みで返事をしていた。



床に落ちていたパンツをぶん投げられた。



「お前さぁ、作るときどんだけもめたと思ってんだよ。せっかくのチャンスかもしんねーべ? さっさと立ち直れ~!」



そうだ。『東京』のアレンジでもめた時に、夜中、未織に電話したことがある。


彼女の声を聞けて不安なことがすっと消えたし、音楽以外の話ができて、いい気分転換になった。



また彼女のことを思い出し、更に気持ちが落ちてしまう。



「とりあえず、スタ練は1週間休みにしとくから。お前も試験期間だべ? 来月名古屋と大阪もあんだから、マジで頼むよ!」



めちゃくちゃ強く肩を叩かれたのに、「……うん」と弱々しいうなずきだけを返した。



卓くんは高校は違うけど、もともと地元の知り合い。


すごいドラマーが隣町の高校にいる、という噂は聞いていて、ライブハウスで彼の音を聴きその通りだと思った。


彼もまた僕の音楽を褒めてくれて、いつか一緒にやりたいねと話したこともあった。



その卓くんが東京の専門に進学すると聞き、すぐ連絡した。


彼のつてでいいベーシストも見つかり、速攻でバンド活動を始めることができた。


ライブも次々決まり、バンドマンとしては順調だった。