さようなら、ディスタンス。



『……何?』



数十秒待ち、ようやく聞こえてきたのは機嫌の悪そうな声。


きっと、寝起きなんだ。必死にそう思い込んだ。



「や、その起きてるかなって」


『まわりうるさくて聞こえない』


「起きてるー?」


『起きてるけど』


「昨日はありがとう。楽しかった」


『昨日?』


「ピアス空けてもらったし、夜まで居座っちゃったし、花火きれいだったし、えっと、その……」



手つないだり、キスしたり……とは恥ずかしくて言えなかったものの、


昨日のできごとを再び思い出し、胸がドキドキしてしまった。



しかし、返ってきたのは、全く想像していなかった言葉だった。



『あーごめん。昨日のなかったことにして』



――え……?



盛り上がっていた気持ちが、急に行き止まりにぶつかる。


ぶつかって砕け散った破片が、心へと突き刺さる。



指から滑り落ちたスマホが、テーブルへとゆっくり落ちた。



鈍い衝撃音がはじける。はっと我に返り、時間と呼吸の感覚を取り戻す。



慌ててスマホを拾い上ると、「……じゃ切るわ」というやる気のなさそうな声が耳に入った。