さようなら、ディスタンス。



さっきから祐希の様子がおかしい。


いつもなら、じゃあラインすれば? とか、またオチのない話ダルい、とか、軽い返事がくるのに。今は違う。


少しビビりながらも、背伸びをして祐希の顔をのぞきこんだ。


勢いよく顔を近づけたのに、彼は動じてくれない。



「やっぱり遠距離だと難しいのかな~。光くんとなら大丈夫だと思ってたけ……どっ!」



頰に軽く衝撃が走る。ドキッ、と強い鼓動が全身に響く。



顔が、彼の両手に挟まれていた。


さっきつながれた手とは違って、全然優しくない。でも、温かい。



目の前の祐希は明らかに不機嫌そう。


だけど、視線が固定されたせいで目がそらせなかった。



「さっきからごちゃごちゃうるせーよ」


「……っ」



自然と肩がすくむ。鼓動が早くなる。


触れられているのは頬なのに、体が熱を帯びていく。



「お前が、今、一緒にいるの誰?」



とうとう来た、と思った。


どくん、と胸が震えた。



「祐希……だけど」


「じゃあ今は他のヤツのこと考えるなよ」



友達は友達。彼氏は彼氏。


今まで守ってきた距離がおかされようとしている。



「……うん」



どかん、とひときわ大きな音が鳴り響く。


返事が聞こえてなければいい。


そう思ったけれど、祐希は軽く微笑み、くしゃっと頭を撫でてきた。