さようなら、ディスタンス。




今からじゃもう間に合わないよ~、とわたしが騒ぐと、見えるところまで連れてくから、と祐希は答えた。



えんえんと続くかえるや虫の合唱の中、花火の打ち上げ音が不規則に鳴り響く。



「ねーねーどこで見るの? 見えるの?」


「わりとどっからでも見えるべ。国道らへんとか? や、もっと人いないとこの方がいい?」


「国道でいいよ。何で?」


「誰にも見つかりたくないんでしょ?」



前を見たままぶっきらぼうに話しかけてくる声が、なんだか優しくて、きゅっと心が締め付けられた。



街灯から街灯へ、光をたよりに1車線のアスファルトを進む。


2つの影が長くなったり重なったり、せわしなく形を変えていく。



夏を感じさせる夜道、星が見える夜空、打ち上げ花火の音。


なにげに風情のあるシチュエーションじゃね? と思いきや……



「待って。早い早い。わたし寝起き!」


「こんな時間まで寝てるのが悪い」



早足で歩く彼についていくのが精一杯でそれどころじゃなかった。



逆にいつ起きたのか祐希に聞くと、「お前の5分前くらい」とのこと。



「それ一緒っ!」



速攻でツッコミを入れる。彼はぷっと吹き出した。



花火の音が連発で鳴っている。


祐希は歩くスピードをゆるめてくれた。自然と隣を歩く形になる。



国道へと続く道は、たまに車が通るくらいで人通りはない。



「言っとくけど、俺、お前に蹴られて起きたから」


「うっそ。まじ? ごめん」


「うそ」


「おいっ」



誰にも見られていない。彼の歩幅に合わせるため。


たまたま手の甲がぶつかってその成り行きなだけ。



いろんな理由が重なり合って、今、わたしの右手は彼の左手に握られている。



ダメだとは分かっている。でも振りほどけなかった。



祐希が手をつないでくれたことが、単純にうれしかった。