「あれ、怒ってる?」


「怒ってない!」


「ケツ蹴られたのに俺、傘入れてやってんじゃん」


「じゃあ出る! さようならっ!」



捨て台詞を吐き、細かいしずくの中へ突入しようとした。


しかし、スカートの裾がきゅっとつかまれる。



「みおりん、帰っちゃうの? やだぁ」



目の前で小さな傘を広げ、わたしを見つめているのは、おかっぱヘアのかわいい女の子。



結局、「ううん。美羽ちゃん遊ぼう。この変なお兄ちゃんなんかほっといてさぁ」


と態度を和らげてしまうわたしだった。



小粒の雨により、まわりの景色は普段より色味を濃くしている。


湿ったアスファルト上を祐希とわたし、祐希の妹――美羽ちゃんの3人で進む。



ちなみにわたしだけ傘がない。不本意ながらも祐希の傘に入れてもらうしかなかった。



「ねーみおりん、お兄ちゃんって変なの?」


「そうだよ。ヘンタイだよ!」


「やだぁ、お兄ちゃんヘンタイ!」


「そーだヘンタイだー!」



美羽ちゃんを巻き込んで祐希を非難すると、


お前美羽に変なこと吹き込むんじゃねー、と言われ、脇腹に肘鉄をくらった。



美羽ちゃんは祐希の10歳下の妹。


わたしは夏休みや冬休みに学童ボランティアに行っているため、美羽ちゃんとは仲良し。


今日は祐希のお母さんが仕事で遅くなるため、祐希が美羽ちゃんの学童への迎えに行くことになったらしい。


付き合ってってそういうことね。美羽ちゃんの面倒見てってことね。