・・・・・・。
来るだろうと思った、感触は私の唇にやってこなかった・・・。
「・・・だれの許可で得て、ノリに触れているんだ?」
その聞きたかったいつもより低い声に、そっと目を開ければ、男の子の肩を掴んでいるゆう君が見えた。
「ゆう君!!」
振り向いてゆう君を見ている男の子の力が緩んだので、身体にまわる手を振り払ってゆう君の後ろに回り込んだ。
驚いた顔の男の子と目が合う。
「誰だよ!」
男の子の迫力にも負けず、ゆう君は男の子の問いを無視した。
私の方は見ないで、男の子から目を離さずに。
「・・・ノリ、帰るからバッグ持って来て。」
「はい!」
ゆう君のいう事は、私の中で絶対的。
やっぱり条件反射で、勢いよく返事をし、カラオケの部屋へと走り出す。
急いで部屋に入ってきた私を見て、他の子たちが驚いた顔をした。
そんなことは関係ないとばかりに、バッグを掴む。
「私、先に帰るから!!」
「え?えーーー!」
驚きの声を背中に受けながら防音のドアを閉めた。
さっきまでいた廊下に戻ると、2人はさっきと変わらず向かい合っていた。
「・・・ゆう君?」
私の声にゆっくりと振り向いて、ゆう君は近づいて来た。
その表情から何も読み取る事はできない。
私からバッグを受け取り、私の空いた手をしっかりと繋いで出口へ歩き出す。
何も言わないゆう君に私も黙ってついて行った。
男の子を振り返る事も無く、私は隣りのゆう君と前を交互に見ながら。
カラオケからすぐの予備校の前に、ハザードランプをつけたゆう君の車があった。
それを見た瞬間、嬉しくなった。
車で探してくれたの?
私を迎えにきてくれたの?
ニヤニヤ顔に出そうだったけど、不機嫌の雰囲気のゆう君に怒られそうで、口に力を入れへの字にしてがんばった。
やっぱり黙ったまま助手席のドアを開けて、私に乗るように顎で指示するゆう君。
エンジンをかければ、低く流れるゆう君のお気に入りのアーティストの歌声が車内に流れた。

