「・・・なに?」
一歩近づかれる。
怖さが増す。
「・・・気がつかなかった?俺、ずーと君を狙っていたんだけど。」
さっきまでのにこやかな声とは違う、トーンが1段下がった声。
「狙って?」
「そう・・・国分さんのこと好きなんだ。結構、わかりやすい態度していたつもりだけど。みんなも気付いていたようだけど。・・・その彼氏と別れて、俺と付き合おうよ。」
私は好きじゃない!と言いたかったけど、声が出ない。
鈍感な私を呪う・・・。
掴まれた手を振り払おうとして動かそうとするけど、ぜんぜんビクともしない。
どうしよう。
私の手を掴んでいない方の腕を、背中にまわされた。
そして、顔を近づけてきた。
キス、される!
咄嗟に防ぎたくて顔を逸らす。
フフフっと笑って、そのまま、チュッと音を立てて頬にキスをされた。
いやだ!
嫌悪で全身に鳥肌がたつ。
怖くて、逃げ出したいのに、足がすくんで動けない。
身体を離したくて、手に力を入れて突っ張ろうとした。
私の僅かな抵抗を薄笑いして楽しんでいるみたいに相手の余裕を感じる。
「ホント、イヤだから・・・離して!!」
少し大きい私の声が狭い廊下に響く。
「しー!誰か来ちゃうじゃん。大人しくして。フフッ。」
怖いけど、相手を睨むために、顔を向ければ、目を細めて口の端を少し吊り上げて笑った顔をしていた。
この人、ホント、無理!
背中に回り込んだ手はそのままに、もう一方の掴んでいた手を離して、今度は顎を掴まれた。
視界にすごく近い男の子の顔が迫ってきたのが見えた。
もう、ダメ、助けて、ゆう君!!
目をギュッと瞑った。

