「ゴメン。一緒に救急車に乗ることになった。うちの病院に運ぶから。」

このショッピングモールからゆう君の勤める大学病院までは車でなら10分ちょっとだろう。

「わかった。私は大丈夫だから、すぐに行ってあげて。」

頷く私を見て、安心したように微笑む。
楽しい、私だけが独占できるゆう君との時間が終わりを迎える事を、やっぱり残念に思う。
今度はいつ会えるのだろう・・・。



「・・・ありがとう。もう1つ頼みがある。車、後で取りに行くからノリのうちに乗って帰って。」

「あ!そうだね。」

車のキーを私に渡す。
キーと言っても鍵の形をしていない黒いそれは、真ん中当たりにメーカーのロゴが印字してある。
キーレスゴーだ。
スマートキーとか、インテリジェントキーっていうヤツ。
それを持たされただけで、自分の運転がとても上手い気になる。
私は、大学生の時に車の免許を取って、たまに近所のスーパーにママと行ったり、パパを駅に迎えに行ったりくらいは運転している。
あのピカピカの外車は、正直、傷つけるかと思うと怖いけどね。


「じゃあ・・・。」



そう言って背中をむけるゆう君。
180cm近くある長身が颯爽と歩く姿は、やっぱりカッコイイ。
細身だけど、均等のとれた広い肩幅から流れるような背中のラインはすごく綺麗。
当然のように、その下には長い足がすらりと伸びている。


「あの人、イケメンだね。」

「どれどれ?・・・顔見逃した!でも、スタイルいいねえ。モデルさん?」




ゆう君が通り過ぎる側のテーブルの女の子たちが、ひそひそとそんな事を囁きあっている。
ゆう君を褒められて、鼻が高くなる思いと、取らないでと叫びたくなる思いが鬩ぎ合う。