シェールを診察した医師の見立は、【蓄積した過労による発熱】だった。

「この田舎でのんびり暮らしながら過労とは、信じられないな」

ユジェナ侯爵が馬鹿にしたように笑うと、医師は淡々と答えた。

「肉体的な疲れだけでなく、精神的な疲れも蓄積すれば体調を崩します。例えば環境の変化や、心に大きな衝撃を受けた時などです」

「大きな衝撃ね……離縁が叶わなかった事がそれ程衝撃だったのか?」

ユジェナ侯爵はクスクスと笑いながら続ける。

「馬鹿な娘だ。少し考えれば、王族との婚姻解消など不可能だと分かるだろうに」

「……」

「まあいい、薬か何かで回復するのだろう?」

「はい。妃殿下に合う薬を処方しました。七日も有れば良くなるかと」

「随分かかるのだな。アルフレート殿下の帰還に間に合うのか?」

薬師は目を伏せて答える。

「ご本人の回復力にもよりますので、断言は出来ません」

「まあいい。出迎えがベッドの中でもアルフレート殿下はお怒りにならないだろう。家令にはお前から適当に伝えておけ」

「はい、畏まりました……侯爵閣下の本日の薬はこちらになります。忘れずにお飲みください」

「分かった。お前の薬は良く効くから助かる」

薬師はユジェナ侯爵が従者に水を用意させるのを見届けると、そっと部屋を出て行った。